ふたりのハナへ贈る歌

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「明日からだっけ?東京」 「あっ……はい」 先生は楽譜をめくる。 「"20年に一度の逸材"だっけ?」 「なんか……そう言われてるらしいです……」 私は思わずはにかんだ。 しかし、一方の先生は表情が固かった。 「ちやほやされるのは今だけ。実際にデビューしたら嘘みたいに叩いてくる。だから、そういうの、真に受けちゃダメ。痛い目みる」 私は一気に表情を暗くした。 「明日からはまるっきり違うものになるわよ。今やっているのは基本。できて当然」 私は先生を直視できず、俯いた。 そんな私を見て、先生はピアノと向き合った。 「努力しても全然相手にされない人たちなんていっぱいいるんだからね」 先生は、息を吐くみたいにその言葉を口にした。
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