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向かい風がルクレチアたちを襲う。銀色の長髪が、風になびき大きく揺れた。
(髪がっ。前が見えづらい)
運転しながらコートのポケットに片手を入れる。取り出したのは、蝶を象った小さな髪留め。今朝、大道芸人のバジルからプレゼントされた物だった。ハンドルから両手を離すと、髪留めで髪をまとめ始めた。その間、バックミラーに映るラムを見る。ラムは振り落とされないように奮闘している。そのラムの様子がおかしいのか、クスリと笑った。本人は意識していないが、《氷の淑女》が笑うなど数年振りのことだ。
だが、次の瞬間、人喰い師独特の冷めた表情に戻った。
独り言を呟く。
「ずいぶんと早いわね。さすがは警備隊……かしら」
バックミラーに機影が映っている。
新たな機械式飛行騎馬。数は七機に増えていた。
レンガ造りの狭い路地で一列編隊を組んで迫ってくる。《西島》の警備隊本部より応援を呼んだらしい。おかげでゴンドラ乗り場に到着するも、わざわざ乗り換える時間は無いだろう、と決断したルクレチアは更にスピードを上げた。
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