第16話 ペトラルカ

3/9
16人が本棚に入れています
本棚に追加
/311ページ
 幸いにして、プラットホームには停止中の貨物用ゴンドラは無かった。ルクレチアたちを乗せたカヴァッロはチューブトンネル内へと吸い込まれる様に進入していく。トンネル内は、小型なカヴァッロが走行するのに十分な広さがあった。ヘッドライトがトワイライト色のトンネルを明るく照らす。ルクレチアの外見にミスマッチした強気な操縦に、流石の警備隊も追っては来られないと思われたが……。 「そう簡単には、見逃してくれないみたい」  バックミラーに向かって呟いた。七機になる警備隊のカヴァッロは依然として、追跡の手を緩めはしなかった。警備隊の先頭に立つカヴァッロに目がいった。他の機体とは異なり、深紅一色の派手なコーティング。隊長機と思われる。  搭乗しているのは、女。  紅と黒の軍服に身を包み、髪は赤毛。  腰には黄金に輝く専用の銃剣を差している。  最も印象的なのは、その顔。右目に眼帯をしていた。  彼女の名は、ペトラルカ。  浮遊都市(ナイン・ユートピア)の警備隊隊長を勤める軍人だった。勇ましい女隊長は、確実にルクレチアたちとの距離を縮めてくる。 (女性? 珍しいわね……それに、どこかで?)  ペトラルカの姿に、ルクレチアは心の中で違和感を抱く。が、その疑問もすぐに解けた。  会ったことがある。  以前ペトラルカと会ったことがあるのだ。  たった一度であるが、それはルクレチアにとって決して忘れることのできない出来事。  瞬時に、ルクレチアの頭には当時のエピソードが蘇ってきた……。        ※  今からちょうど四年前。  ルクレチアが人喰い師になる前の、まだごく普通の乙女だった時の事。     
/311ページ

最初のコメントを投稿しよう!