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幸いにして、プラットホームには停止中の貨物用ゴンドラは無かった。ルクレチアたちを乗せたカヴァッロはチューブトンネル内へと吸い込まれる様に進入していく。トンネル内は、小型なカヴァッロが走行するのに十分な広さがあった。ヘッドライトがトワイライト色のトンネルを明るく照らす。ルクレチアの外見にミスマッチした強気な操縦に、流石の警備隊も追っては来られないと思われたが……。
「そう簡単には、見逃してくれないみたい」
バックミラーに向かって呟いた。七機になる警備隊のカヴァッロは依然として、追跡の手を緩めはしなかった。警備隊の先頭に立つカヴァッロに目がいった。他の機体とは異なり、深紅一色の派手なコーティング。隊長機と思われる。
搭乗しているのは、女。
紅と黒の軍服に身を包み、髪は赤毛。
腰には黄金に輝く専用の銃剣を差している。
最も印象的なのは、その顔。右目に眼帯をしていた。
彼女の名は、ペトラルカ。
浮遊都市の警備隊隊長を勤める軍人だった。勇ましい女隊長は、確実にルクレチアたちとの距離を縮めてくる。
(女性? 珍しいわね……それに、どこかで?)
ペトラルカの姿に、ルクレチアは心の中で違和感を抱く。が、その疑問もすぐに解けた。
会ったことがある。
以前ペトラルカと会ったことがあるのだ。
たった一度であるが、それはルクレチアにとって決して忘れることのできない出来事。
瞬時に、ルクレチアの頭には当時のエピソードが蘇ってきた……。
※
今からちょうど四年前。
ルクレチアが人喰い師になる前の、まだごく普通の乙女だった時の事。
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