第1話 楽宴

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 首を傾げた沙羅は一人の子供を指差した。その子供は全く反応を示さない。隣では両親が悶絶の表情で息絶えていた。 「書物によりますと、この者たちは未だ完全な《黒天使》になったわけではありません」  団長の説明に、沙羅は不思議そうなに首を傾げた。  大昔に実在したと云われる伝説の化け物……《黒天使》。  団長は手に持った書物を開き、 「沙羅様。私たちが生み出そうとしている《黒天使》を、蝶に例えて考えてみてくださいませ」 「うん」  蝶は《卵》から《幼虫》になる。更には、《蛹》を経て最後には《成虫》となる。団長は分かりやすく説いた。 「《卵》を口に入れた者たちは先ほどまで《幼虫》として動いておりました」  けれども、《幼虫》から《蛹》へと変態する為には、或る儀式が必要となる。  それがたった今、執り行われたばかりだった。沙羅も琵琶を奏でて、儀式たる《楽宴》に参加していた。 「残念ですが、《蛹》へと変態する過程で多くの者が死に至りました。それでも、今生き残った子供たちこそが、まさに《蛹》なのでございます」 「へえ」 「更に七日間を経た後に初めて《成虫》に……いよいよ《黒天使》へと《羽化》するのでございます」     
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