16人が本棚に入れています
本棚に追加
首を傾げた沙羅は一人の子供を指差した。その子供は全く反応を示さない。隣では両親が悶絶の表情で息絶えていた。
「書物によりますと、この者たちは未だ完全な《黒天使》になったわけではありません」
団長の説明に、沙羅は不思議そうなに首を傾げた。
大昔に実在したと云われる伝説の化け物……《黒天使》。
団長は手に持った書物を開き、
「沙羅様。私たちが生み出そうとしている《黒天使》を、蝶に例えて考えてみてくださいませ」
「うん」
蝶は《卵》から《幼虫》になる。更には、《蛹》を経て最後には《成虫》となる。団長は分かりやすく説いた。
「《卵》を口に入れた者たちは先ほどまで《幼虫》として動いておりました」
けれども、《幼虫》から《蛹》へと変態する為には、或る儀式が必要となる。
それがたった今、執り行われたばかりだった。沙羅も琵琶を奏でて、儀式たる《楽宴》に参加していた。
「残念ですが、《蛹》へと変態する過程で多くの者が死に至りました。それでも、今生き残った子供たちこそが、まさに《蛹》なのでございます」
「へえ」
「更に七日間を経た後に初めて《成虫》に……いよいよ《黒天使》へと《羽化》するのでございます」
最初のコメントを投稿しよう!