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「クリスマスプレゼントに、何が欲しいって聞かれてさ」  しばらくひとりにしてほしいと夫に願い出て、クリスマスに千里は家を出た。実家には帰らず、そのまま通勤圏内でホテル暮らしをはじめた。あらぬ誤解も受けたのだという。誰か相手がいるんじゃないかという夫の問いに、千里は「会いたいなら、会いにくればいい」と切り返した。 「そうしたら、3日で会いにきた」  けれど、彼女は戻らない。このまま年末年始もどこかで過ごす予定だ。 「別れたいのかって言われたけど、そうじゃない。ただゆっくりこれからのことを考えたいって言ったら、俺もそうするって」  大晦日を明日に控えた昼下がり、私たちはあのファミレスにいた。ひと月前と同じ席のはずなのに、そこからの眺めはずいぶん違って見えた。 「茉莉は? 実家に帰るの?」  例年は、ここから電車で30分の実家で年を越す。帰れば、父も母もいつも通りに私を迎えてくれるだろう。姉夫婦と甥たちも来て、居心地のいい時間を過ごせるはずだ。でも、そこに身を浸すのが今は怖い。ひとりの部屋に戻れなくなりそうな気がして、まだ決めかねていた。 「そろそろ行かないと」  時刻は14時。夜勤に向かう千里とはここでお別れだ。よいお年をと言い交して、彼女は歩き出す。  千里はちゃんと答えを出した。そのことに敬意を表したくてその背中が人ごみに紛れるまで見送った。  右斜め上に視線を投げる。そこには、当たり前のように謙さんがいた。微笑みとともに差し伸べられた手をしっかり握る。革手袋の冷たさに励まされて、私も雑踏に一歩踏み出した。
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