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「なんで、こんなこと、に、なっちゃったんだろう…」
ウェイトレスがやってきても泣き止めず、ひとしきり話し終えるころにはテーブルの上は食べ物で溢れかえっていた。目の前の豊かな光景と裏腹に心は空っぽで、どれひとつとして手をつける気分になれなかった。
「茉莉…」
「ごめんね、こんな話して…」
「いや、私こそ、ごめん…」
くるくるとスプーンを止めることなく、千里はスープのカップに視線を落とした。あまりにも様子がおかしい彼女の仕草に、嫌な予感が過る。疑念を口にしようとした瞬間、
「私も、夫に浮気されてるの」
意を決したように言い切った彼女の視線をまともに受け止めてしまった。おかげで、私の言いたかったことも彼女に透けて聞こえてしまった。
「ちょっと、今、私が彼氏とったかもしれないって思ったでしょ!」
「いや、ごめ」
「あのね、私が貴女を失うようなこと、するわけないでしょ!」
「いや、本当に」
「茉莉の話を聞いてあげたいのに、自分のことで頭がいっぱいになっちゃって、ちゃんと聞いてあげられないなって思ったの。だから謝ったの!」
「ごめん……」
どういたしまして、と千里は頷き、ようやくスープに口をつけた。私もカフェオレを啜り、しばらく沈黙が続いた。
「それ、いつわかったの?」
「…昨日。うち、子作りしてるじゃない」
「うん」
「なのに、コンドームが減ってた」
「……旦那、アホか」
「そう思うでしょ!普通疚しいことに使うものなら、よそで調達するでしょ?!中学生じゃないんだから!家の持ち出すとか、どんなアホかと……」
よりにもよって、そんなことするアホが夫……と呻きながら、千里はテーブルに突っ伏した。
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