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千里は看護師で、夫は消化器内科の医師だ。美人で明るい千里を気に入った夫からのアプローチで、付き合いがはじまった。結婚式でも、「新婦は職場のアイドル」「ちゃっかりモノの新郎が連れていった」という紹介がなされたくらいだ。そういう経緯だったはずだ。
「だから、医者は嫌だったのよ……」
「そうね、ずっと嫌がってたもんね」
「あいつら、たいしたことができるわけでもないのに、無駄にモテるし」
「そうね」
「泊りも多いし、こっちも夜勤あるし。いつかこうなるんじゃないかと思ってたんだけどさぁ…」
低く呻き続ける千里の背中を眺めて、またしても急激に悲しくなってきてしまった。
「どうして、千里、何も悪くないのに……」
もはや自分のことはどうでもよかった。この大事なひとが、傷ついていることがつらかった。また泣きはじめた私に、千里は机に突っ伏したまま手を伸ばしてきた。そのままその手を握り返して、私はぐずぐずと泣き続けた。
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