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12月のある日、私はとんでもなく惨めな気分に突き落とされた。
理由は簡単で、彼氏に振られた。捨てられたといってもよかった。
「ごめん、クリスマスは一緒に過ごせない。好きな娘ができた」
もう台詞は用意してあったのだろう。電話の向こうから一息にそう言われて、私は返す言葉がなかった。いくらかの沈黙の後、
「あぁそう…じゃあ、仕方ないね」
と、ちっとも仕方なくはないのに笑いながら電話を切ってしまった。
会社からの帰り道、自宅まであと3分という路上で迎えた唐突な結末に、しばらく何が起こったのか把握できなかった。
ひとまず家に帰り、冷えきった部屋にそのまま座り込んだ。おもむろに彼からのメールフォルダを開き、最後のメール(着信は1週間前、文面は「お疲れさま、おやすみ」のみ)を読み返した。そこからどんどん過去にスクロールし、一体いつから彼の気持ちが離れてしまったのか考える作業に入った。結局、3時間をかけて2年分のメールを読み返し、そうしたところで何の解決にもならないことをようやく飲み込んだ後、私は千里へメールを送った。
『久しぶり。ついさっき、彼と別れました。また時間があるときに会えたら嬉しいな』
すると、感傷に浸る間もなく、千里から電話がかかってきた。
「どういうこと」
2割の驚きと5割の労り、3割の(おそらく彼氏に対する)怒りを含んだ声で、千里は切り込んできた。
「いや、まぁ、メールの通り…」
「今どこ?」
「部屋だけど…」
視線を上げると、荒れ果てた自分の部屋が目に飛び込んできた。乱雑に放り出された服、書類、雑誌が、ベッドの上に稜線を描いている。
「会おうよ、今から。私、会いに行くよ」
「え、いいの? 旦那さん、心配しない?」
「いいの、気にしないで。そっちに行こうか?」
私の心配を言下に退けた彼女の頼もしさに、既に泣きそうになる。
「ありがとう…でも、ごめん。部屋の中ぐちゃぐちゃだから…外でもいい?」
「わかった。じゃあ…」
お互いの部屋から徒歩10分程度のファミレスに、20分後に集合。何度もありがとうとごめんを繰り返して、電話を切った。
安堵の吐息が白く浮いて、何ひとつ暖房をつけていなかったことに気づく。足先は感覚を失っていたけれど、気持ちは少し温まっていた。それに励まされて、再び冷えたブーツに足を突っ込んだ。
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