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恋、しちゃいました。
日曜のその日。枕元に置いたスマートフォンが騒々しく鳴り響き、俺こと設楽要(したらかなめ)はシングルベッドの上でゴソゴソと寝返りを打った。起きる時間にはまだ早いという事だけは、僅かに開いたカーテンの隙間から見える景色が薄暗い事から確認できる。
ぼんやりと寝ぼけたまま碌に確認もせず通話ボタンを押した俺は、最初、声を聞いても相手が誰だか分からなかった。
「もしもし…」
『要か』
「………誰…」
『尊だ』
「あ? ……ああ? え? 兄貴…?」
『ああ』
相手の言葉を聞いた瞬間、ガバッと起き上がり、ベッドの上に思わず正座してしまったのは、何というかまあ、驚きのあまり…ではなく兄の尊(みこと)が怖いせいだ。
「おぉお、おはようございます!」
『おはよう。突然で悪いんだが、お前に頼みたい事がある』
「え…?」
兄貴と言っても俺たち兄弟に血の繋がりはない。兄貴は父親の再婚相手の連れ子で、年齢は二十一の俺よりも全然上の三十八だし、今年の春から一人暮らしを始めた俺とは違って、兄貴は以前から自立しているために家にはほとんど帰ってこない。
というより、俺と兄貴が顔を合わせた回数なんて、数回程度の事じゃないだろうか。
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