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そんなこんなで時間は過ぎて。午後九時を回ったくらいに兄貴が帰ってきてその日の俺はお役御免となった。といっても、帰りにしっかり翌日の時間を告げられたのは言うまでもない。
家に帰りついた俺は、速攻でベッドに横になった。何もないクリーム色の天井を見上げてれば、何だか劉の顔が浮かんでくるような気がして変な気分になる。
「綺麗な人だったなぁ…」
ぽつりと零しても、一人暮らしの俺にはもちろん返事なんて返ってくるはずもなく。
―――あー…兄貴にストローの事言うの忘れてた…。
和室のテーブルの上に置いてきたから大丈夫だろうかなどと思いつつ、それでも何だか気になって俺は枕元に放り投げていたスマホを取り上げた。メール作成の画面を開き、そこでふと手を止める。
―――電話の方が早いかな…。気付かなかったら嫌だし。
そう思って、何が嫌なんだと思わずツッコミを入れる。けれど、答えなんてとうに決まってて、劉がまた痛そうな顔をしてお茶を飲んだりするのが嫌なんだって、俺自身はっきり自覚してた。
耳にあてた液晶からは、聞き慣れたコール音。プツリと僅かなノイズとともにつながった回線の向こうから、兄貴の平坦にも聞こえる静かな声が返事をした。
「俺、要だけど」
『何だ』
「劉さ、お茶飲むのに両手痛そうだったからストロー買っておいたんだけど、言うの忘れてて…」
『そうか』
「う、うん…」
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