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謝る俺に苦笑を漏らしながら切れたスマホの液晶には、約束の時間を五分ほど過ぎた時刻が映し出されてる。兄貴が出なければならないという事は、あのアパートには劉が一人という事だ。
食事をするのも両手を使ってやっとという劉を、長い時間一人にさせておくのは忍びなくて。朝ご飯は食べただろうかなどと思いながら、着替えだけを済ませて俺は家を飛び出した。
俺の住むマンションから兄貴のアパートまでは、原付バイクで十分かかるかかからないかといった距離だ。昨日は場所があるか分からなかったので徒歩で出たけれど、一応玄関の前にスクーターを一台停めるくらいのスペースはあった。
渋滞の多い都内では、案外スクーターは重宝する。それに、ちょうど出勤ラッシュとバイトの終わる時間が重なる事もしばしばで、電車に乗らなくて済むのはいいかとつい最近買ったばかりだった。
ともあれ予定通り十分くらいで兄貴のアパートへと辿り着いた俺は、原付にしっかりと鍵をかけてドアを開けた。
「寝坊してごめん…っ、何か困ったりしてない?」
言いながらギシギシと床板を軋ませて上がり込めば、昨日と同じようにテーブルのすぐ横に一人で座ってた劉の穏やかな声が返事をした。
「大丈夫だ。お前のおかげで不自由はしていない」
「そっか…それならよかった。飯は? もう食った?」
「それなら台所にお前の分も用意しておくと、設楽がそう言っていた」
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