82人が本棚に入れています
本棚に追加
食器を丁寧に重ねて台所に運び、ついでとばかりに俺が洗い物をしたのは、間違いなく劉の印象を良くしようという下心。我ながらどんだけ姑息なんだって思うけど、好きな人に良く思われたいのは、人間の性ってやつだろう。そうじゃなければ洗い物なんて後回しにする性格を俺はしてる。
兄貴のアパートは、古いけれど結構ちゃんと掃除とかされてて、台所も良く見れば綺麗だった。物が少ないせいか、整頓もされてる。
小さな流しの横に置かれた水切りカゴへと洗った食器を並べ、さすがに水気を拭くのはいいかと手抜きをした俺は、和室へと戻った。
「飲み物とかまだある? 何か飲みたいものとかあれば買ってくるけど」
「大丈夫だ、ありがとう」
言いながら返される劉の微笑みはやっぱり綺麗で、俺も思わず微笑み返す。言っておくけど、俺の見た目はそんなに悪くないはずだ。これでも大学ではよく女子が寄ってくる。ついでに言うなら男に告白されたこともある。まあ、自慢にならないけど…。
さすがに何かを食べさせたりする訳じゃないから隣に座るのは不自然だろうな…と、テーブルの角を挟んでちょっと近めに座る事にした。昨日は、向かい側だった。
◇ ◆ ◇
兄貴のアパートで劉の手伝いをするようになって一週間くらい経ったある日。午前中いっぱい大学の講義があって、午後になって兄貴のアパートへと顔を出した俺は、座敷に座る劉の顔がなんだか嬉しそうな事に気付いた。
「何か今日は楽しそうな顔してんね、劉」
「そうか?」
最初のコメントを投稿しよう!