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「んあっ? だっ、だって…、そんななんか…どうしたらいいのかも分かんないし初めてだし…っ。た、ただ…やっぱり不便だろうなって…思って…」
―――顔が赤いのバレてる…っ。
そう思えば恥ずかしくなって、思わず俯いた俺の頭を何かがさらりと触れていった。
―――え…?
驚きに顔を上げても既に劉は和室から出て行ったあとで確かめようもない。
―――頭…撫でられた…よな?
それは本当に微かに触れただけだったけれど。
何だかいてもたってもいられなくて、思わず立ち上がった俺はミシッと板の間を軋ませていた。
「どうした?」
「やっぱ手伝う」
台所のある床の間の奥に下がった暖簾を片手で払うと、僅かに隙間の開いたドアがあった。
「開けるよ?」
「ああ」
ドアを開ければキィ…と小さな軋みが上がる。狭い個室の中に劉の背中が見えた。
兄貴のアパートはトイレと風呂場だけはリフォームしてあって、玄関や台所ほど古くない。誰のセンスだか分からないけど、淡いピンク色の壁紙が建物とはミスマッチなトイレだ。
「下だけおろしたらいいの…?」
「ああ、それで構わない」
あっさりと言う劉だけど、ふと俺はその場で固まった。だってほら、男って支えたりするし…ね。一度考えだしたら止まらなくて、劉の両手は殆ど指先も出てないのを思えば支えた方が良いの? とか、そんな事まで考えてしまう。
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