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静かな劉の声。いつものように優しくもなくて、揶揄うでも、怒っているのでも、呆れてるのでもない。感情の籠らないその声が、すごく寂しそうに聞こえてしまってどうしようもなかった。
俺が肩を抱いてても嫌がる感じでもなくて、しばらくそうしてれば今度は少しだけ揶揄うような声が聞こえてきた。
「教えろとは、言わないのか?」
「うーん…。聞いても俺にはどうする事も出来ないから、自分からは聞かないかな。知りたくないとかそういうのじゃなくて…、相手が話したかったら話すと思うしね。聞くだけ聞いてって人は、自分から話すでしょ?」
「なるほど」
「嫌な事思い出すなんて、誰でもあるし」
「それで、お前は私を慰めてくれたという訳か」
「うん…」
慰めになってるのかどうかは甚だ疑問だけど、そう返事をすれば劉が小さく笑ってくれた。
結局、その後すぐに『大丈夫だ』と、『すまなかった』とそう言って腕を離すように言われてしまって、俺は手を離した訳だけど。当然もう少しくらい抱きしめていたかったというのが本音だったりする。
弱みに付け込むなんて…と、そんな事を思うほど真面目な訳じゃない。まあ、離せって言われてそのままいられるほどの度胸はもちろんないけれど。
ヘタレだ…。と、そう凹んでいた俺は、だがその後『ありがとう』とそう言って劉に微笑まれただけでどうでも良くなってしまった。
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