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思わず口に出してアプリを閉じると、兄貴からのメールを再び開く。
『みのり荘』
今にも崩れ落ちそうなほど錆びた階段の手摺に括りつけられた木の板には、うっすらとアパートの名前が書いてある。メールに書かれたアパートの名前と同じだった。
―――ヤクザって、こんなとこにしか住めないくらい儲からないの…?
一階の一番奥の部屋だと書かれたメールの通りに、狭く薄暗い通路を通りドアの前に立てば、ドアには辛うじて読み取れる薄さの部屋番号が漢数字で書かれてた。
―――十って何だよ!!
一ならまだしも、何故に十なのか…。思わず来た道を後ろ足に戻り、隣の部屋のドアを見れば、そこには十一って書いてあった。
なんともレトロ…と言えば聞こえはいいけど、築何十年だか分らないほど古いこんなボロアパートに、未だに人が住んでる事が俺には信じられない。だってこの家、インターホンはおろか、呼び鈴すらないんだ…。
再び兄貴の部屋と思われるドアの前に立ち、恐る恐るドアをノックする。そう待つこともなく開いたドアから、ぬっと顔を出した兄貴に俺は思わず後退った。
ドアのサイズなんてどのアパートも大差ないと思うけど、百九十を超える兄貴が顔を出すと小さく見える。
「要か。急に悪かったな」
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