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はぁ…と、小さな溜息が聞こえてきて俺は小さく肩を震わせる。人ひとりの世話も出来ないのかと、呆れられてしまったのだろうかと、そんな事を考えていれば、またしても兄貴の口から流れ出る言葉は俺の予想もつかない事で。
『お前劉の事が好きなんだろう? 今でもそれは、変わらないのか?』
「へあ…っ!?」
『別に隠さなくていい。男同士くらいで驚きはしないからな』
「あの…うん…そうなんだけど…その…、昨日…ちょっと揉めちゃって…考えてたというか…、…考えてた」
再び小さな溜息が聞こえて、俺はその場に穴を掘って埋まりたい気分になる。そんなに呆れなくたっていいんじゃなかろうかと、そう思う。俺だって一応、真面目に考えてるんだ。
『まどろっこしいな。時間があるならちょっと付き合え』
「大丈夫…だけど…」
大学に迎えに行くと、そう言って電話は切れた。
俺の家と大学は目と鼻の先で、通学は徒歩だ。原付は家の駐輪場にあるから何の問題もないと、そう思っていられたのは束の間だった。
再び掛かってきた電話で指定されたコンビニの駐車場で、思わず俺は立ち尽くす。
明らかに、その筋の人が乗るような国産高級車。しかも窓真っ黒。これが立ち止まらずにいられるかと言うのだ。
「マジか…」
既に気分はどこかに拉致られる一般ピープルな訳で。
ちょうどタイミング良くコンビニの自動ドアから出てきた兄貴に首を倒されて渋々歩き出す。
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