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―――これ…大学の知り合いに見られたら通報されるんじゃ…。
そんな俺の心配をよそに、助手席の窓がするすると降りて中から『早く乗れ』と兄貴に急かされる。
「お、お邪魔します…」
恐る恐る助手席のドアを開ければ、なんか普通の車よりもドアが重い気がしてならない。その意味を理解して、俺はゾッとした。
「何をそんなに怖がってるんだお前は…」
「ぃいやだって! こんな高級車乗った事ないし…っ」
ドアを開けてしまえばあとは勢いのまま乗り込んで、必死にドアを閉めた俺に兄貴は呆れてるようだった。
―――いやでもうん…怖いって普通…。兄貴じゃなかったら確実に近寄らないよねコレ…。いや兄貴でもあんまり近寄りたくないけど…。
俺は平凡な人生を歩みたいタイプで…なんて思いながらも慌ててシートベルトを締めたのは、何も言わずに兄貴が車をバックさせたからだった。失礼かもしれないけれど、車の割に兄貴の運転は丁寧で、締めたばかりのシートベルトを全力で握っていた俺は少しだけ力を抜いた。
「ど、どこ行くの…?」
「別にどこにも行かない」
「え?」
どこにも行かないのなら、何故車を出したのだろうと疑問に思っていれば、兄貴が小さく笑った。
「いつまでもこんな車が停まってたら、迷惑だろう?」
「ぁ……」
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