恋、しちゃいました。

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 今にも大声で笑いだしそうなほど楽しそうに言ったフレデリックに、悲痛な声をあげたのは劉だった。 「フレデリック…ッ!! お願いだっ、それだけはやめてくれッ! お願…ぃ、お願いします…っ、この子は…この子だけは…!」  後ろ手に縛られたままフレデリックの足元に蹲って懇願する劉は痛々しくて、俺は思わず目を背けてしまった。  ―――何だよこれ…。なんでこんな事になってんの…?  人間信じられないものを目の当たりにすると、気が遠くなるっていうのは本当なんだって思った。すべてが別の世界…そう、夢の中の出来事みたいに思えて、現実味が薄れていく。  薄く張った膜の向こうで繰り広げられてる、言うなればこれは作り話。だからきっと、今俺の目の前で起こってる事は全部嘘だ。フレデリックの後ろから出てきた兄貴も…。  だってそうだろう? 兄貴ってば、なんか日本刀みたいの持ってる。そんなの、現実じゃ有り得ないじゃないか。いくらヤクザだからって、そんなのは映画の中だけだ。聞こえてくる言葉だってほら、台詞みたいな、そんな感じでさ…。 「そんな物騒なものを持って乗り込んでくるなんて、キミらしくないんじゃない? 設楽尊クン? 辰巳が悲しむよ?」 「その辺で、勘弁してもらえませんか…」     
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