81人が本棚に入れています
本棚に追加
そう呟いたきり、兄貴は黙り込んだ。それが俺には不安で仕方ないっていうのに、だ。だって兄貴みたいなヤクザって、親分とかそんな偉い人が白って言ったら黒くても白になるって、何かで聞いた事がある。俺だって、それくらいの事は知ってる。
「やっぱ兄貴は信用できない…」
ぽつりと、零した俺の本音。
兄貴は顔を顰めたけど、俺にはもうどうでもよかった。どうせ兄貴は居場所を教えてくれる気もないだろうし、手を貸してくれるつもりもないって、そう分かったから。
「もういいよ…。自分で何とかする…」
そう言って起き上がろうとすれば、今度は兄貴も止めなかった。何だか躰が重い気がしたけど、寝起きだからだろうと思う事にした。自分で何とかするって言ったって、俺には何をすればいいのかも分からなかったけど、とにかく兄貴の顔を見てたくなくて。
いつの間にか連れ込まれてた建物を出たら、そこは雑居ビルだった。雀荘とか、小さなスナックとかの看板がビルの壁にズラッと並んでる。それを見上げて、目に留まった派手な看板だけを記憶した。
―――どうしよ…。警察は…でも確かに誘拐って言っても劉の名前だけじゃ動いてくれないよな…。てか俺、他人だし…。現行犯じゃなきゃきっと無理だ。
最初のコメントを投稿しよう!