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兄貴の声にペコリと頭を下げながら正座すれば、その人の顔が僅かに微笑んだ。…気がした。
「こいつの両手が治るまで、俺が居ない間の世話を頼みたい」
「両手?」
言いながら身を乗り出すまでもなく視線を下げれば、その人の両手には包帯がこれでもかと巻き付けられていて。
―――何それ何でそんな怪我してるの怖い!
辛うじて中指と薬指、それに人差し指の先だけが包帯から覗いているその人の両手。いったいどんな怪我をすればそんな事になるんですかと、聞きたいけれども怖くて聞けない。
そんなことを思っていれば、ふと部屋の中が影が差したように暗くなる。兄貴が立ち上がったのだ。
「お前の職場には俺の方から話を通す。悪いが頼んだぞ」
「はい……、ってえぇええええっ!?」
それだけ言い残してさっさと玄関のドアを開けてる兄貴に縋るように手を伸ばす。が、無情にもバタンと音をたててドアは閉まった。
「世話って…何したらいいの…」
そもそも名前くらいは紹介していってくれてもいいんじゃなかろうか兄貴…。と、俺は本気で泣きそうになる。
けれど俺は、背後から聞こえてきた声に、ガクリと畳の上に両手をついて項垂れていた頭をはっと上げた。
「私のせいで迷惑をかけてすまない」
「あぁああ、あのっ、いやっ、そんな事は…っ」
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