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何故だか照れくさくなって俯き加減で言う俺の言葉尻に、被せるように聞こえたその声は、間違いなくオーナーだった。須藤甲斐。二十歳という若さでその人が国内最大級の企業グループのトップに立った時、俺はまだ十一歳だったけれど、その日は一日中マスコミが騒いでいたのを覚えてる。そしてハヤトさんも、その時にデビューしたんだ。
「隼人。先に行っている」
「かしこまりました。すぐに参ります」
丁寧に頭を下げるハヤトさんの後ろから、俺は無意識に須藤さんの名前を呼んでいた。
今だってハヤトさんをはじめ、他にも有名なモデルや歌手、アイドルなんかを輩出してる芸能事務所の社長よりもさらに上。まさに雲の上の人の名前。きっと趣味でやってるホストクラブで働いてるだけの俺の事なんか覚えてないだろうけど、それでも、この時の俺は必死だった。
「あの…っ、須藤さん!」
ハヤトさんの目が、驚いたように僅かに見開かれるのが分かる。それはそうだろう、幾ら同じ職場にいるからって、須藤さんは俺なんかが気安く声を掛けられる相手じゃないんだから。
それでも、怪訝な面持ちながらも振り返ってくれた須藤さんに、俺は聞きたい事があったんだ。
「すみません。あの、劉…劉国峰という名前の男を、ご存知ないですか?」
僅かに首を傾げ、視線を落として考え込むそぶりをみせる須藤さんの言葉を、俺は祈るような気持ちで待った。
―――頼む。敵でも味方でもなんでもいいから、せめて関係のある人であって!
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