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店のオーナーとはいえそれを知るのは店長とハヤトさん、俺を含めた数人の内勤スタッフだけ。勝手な私情でそんな人に声をかけて、迷惑をかけたとなればクビにされても文句は言えないだろう。
でも、それよりも今は、少しでも劉に繋がる情報が欲しかった。
部屋の中に入ってみれば、先に歩いて行ってしまった須藤さんの他に、もう一人。
―――あの人…。
兄貴が”若”って呼んでた人。辰巳さんがそこには居た。
ハヤトさんの後ろに連れられて部屋に入った俺の姿に、辰巳さんは器用に片方の眉を上げてみせる。
「甲斐よ。お前が拾ったって面白れぇのってのは、そこの設楽弟の事かよ?」
「捨てられた犬のような目をして随分必死だったんでな。お前なら、名前くらいは知ってるんじゃないかと思って」
「名前? 誰だよ」
「劉国峰」
俺が須藤さんに言ったのとは違う。けれど、劉自身が最初に名乗った発音と同じ言葉で名前を告げた須藤さんに、辰巳さんは一瞬にして真顔になった。
「甲斐、悪ぃがお前、席外せ。それと隼人もだ。カメラも全部切れ」
「驚いたな。日本にいたのか?」
「それ以上はナシだ。首突っ込んだところで碌な事になんねぇからな。大人しく言う事聞けよ」
「それじゃ肯定してるのと同じだろう。相変わらず、お前は単純すぎる」
「うるせぇな、放っとけ」
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