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辰巳さんがそう言えば、兄貴がバックミラーをちらっと見るのが分かった。
「言いましたよ。劉が出ていく前の晩でしたが」
「えっ!? 聞いてないッ!!」
「出てく前の晩? 俺がお前んとこ行った日か」
「はい」
聞いてないと反論した俺は、けど辰巳さんの言葉を聞いて思い出した。
劉がその日は何だか嬉しそうにしてて、それで気になって俺は兄貴に誰が来てたのか聞いたんだ。そしたら辰巳さんだって言われて…それで…。何かを、兄貴は言ってた気がする。
その時の俺は、相手が辰巳さんで勝てるわけないって凹んでて、途中から話を聞いてなかった。
「あ…っ」
思わず小さな声を漏らすと、運転席で兄貴が溜息を吐くのが分かった。
「ご…ごめんなさい…」
「大方、若が来てたと知って俺の話なんて聞いてなかったんだろ」
「う…ッ」
「はぁん? 何で俺が顔出してそんな話になんだよ」
「嫉妬ですよ。若に話を通せて、劉が満足そうな顔してましたからね」
兄貴は、何もかも分かってる。もちろん俺が話したからってのもあると思うけど、きっとあの時からもう俺の気持ちになんて気付いてたんだと思う。だから、好きになるならよく考えろって、俺に劉の事をちゃんと教えてくれたんだ…。
―――聞いてなかったけどっ!!!
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