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おずおずと手を差し出せば、辰巳さんはあっさりと掌にケースを乗せて返してくれた。外した本体を再びケースにはめ込んで、上着のポケットに入れると、辰巳さんは僅かに眉を上げながら俺を見る。なんでそんなに変なものでも見るような目で見られるのかと不思議に思ってたけど、すぐに辰巳さんは視線を逸らしてしまった。
「あ…あの…聞いても、いいですか?」
「何だ」
「劉が…その、中国のマフィアだっていうのは分かったんですけど…、フレデリックっていう人は…何なんですか?」
俺に答えたのは、兄貴だった。
「要。余計な事は知らなくていい」
反論を許さないような、そんな怖い声で言われてしまえば、俺には何も言えなくて。聞いちゃいけない事を聞いてしまったんだと気付く。けれど、それで増々あの人は何者なのか、俺が気になるのは当然の事だった。
黙りはしたものの、俺の頭の中には金髪の男の人の楽しそうに笑う顔が浮かんでは消えていく。けどその中に、ふと劉の肩を抱くフレデリックの姿が浮かんで俺は小さな声を漏らした。
「ぇ…?」
辰巳さんがちらりとこっちを見るけど、今の俺にとってはどうでもいい。問題は、頭の中に浮かんだ映像だ。どうして、劉の肩をあの男が抱いてるのか。
―――なんか…、俺、忘れてる…?
何か、とても大事な事を忘れてる気がして、必死に思い出そうと目を閉じた。
―――嫌な夢を見て…起きたら兄貴が俺を覗き込んでて…。違う。その前。夢…? あれ…、夢じゃない?
訳が分からなくなって、目を開けた俺はバックミラーに映る兄貴を見た。
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