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あまり陽の射さない路地を抜け、コンビニへと辿り着いた俺は紙パックのお茶とストロー、それと自分の飲み物、ついでに昼に食べようとパンを幾つか調達してアパートに引き返す。
部屋へと戻れば相変わらず劉は大人しく座っていて、俺は紙パックのお茶にストローを挿して劉の目の前に差し出した。いつから劉がここに居るのかは知らないけれど、両手を怪我してるのに湯呑をそのまま渡すあたり兄貴はきっと気が利かないんだろうと思う。
驚いたように少しだけ眉をあげた劉が俺を見る。
「テーブル低いから少し飲みにくいかもしれないけど」
「わざわざこれを買いに…?」
「それなら持ち上げなくても飲めるだろ?」
「…ありがとう」
「どういたしまして」
世話をしろって兄貴に言われた時は何したらいいのか分かんなかったけど、不自由そうな事をフォローするくらいなら俺にも出来る。これならどうにか大丈夫かも…なんて俺の安易な予測は、だが数分後、劉が立ち上がった事ですぐに裏切られる事になった。
狭い台所へと出て行ったきり、なかなか戻ってくる気配のない劉に俺が訝しんだのは、五分ほど経ってからの事だ。なんとなく畳の上を這って覗き込めば、奥に下げられた色褪せた暖簾の先に光が漏れてた。その場所がトイレである事は、さっきストローを探すついでに調べてある。
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