一章.雪の森

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僕がまだ小さい頃、あの頃の両親はとても忙しく働いていた。 必然的に家の事は姉がするしかなく、僕の面倒も見ながら大変だったのだろうと思う。 幼い僕は姉が構ってくれない事に腹を立てて悪戯をした。 きっとあれは怒っていた以上に構って欲しくてした事だったのだと思う。 姉が料理をしている時に、庭で捕まえた大きな虫をその足に乗せたのだ。 最初は何事か分からず首をかしげていたが、顔を近付けてそれを見た時、姉はひどく驚き叫んだ。 僕は姉が大の虫嫌いであることを知っていたのだ。 けれどタイミングが悪かった。 姉は驚いた拍子に料理に使っていたナイフに手を引っ掛け怪我をしてしまった。 そこまで酷いものではなかったが、僕のせいで姉が傷付いたという事実にとてもショックを受けた。 僕は姉の手のひらから流れる血を見て泣く事しか出来なかった。 痛いのは姉のはずなのに、姉はそんな僕に大丈夫大丈夫、と声を掛けながら優しく許してくれた。 家に帰って来た両親が怪我について聞いてきたが姉は決して僕の事は話さず、料理していて切ってしまったのだと嘘をついた。 僕は意気地なしだったからそんな姉の優しさに甘えて遂に本当の事を言う事はなかった。 けれどそれから幾日かはひどい罪悪感に襲われ時折涙を流した。 姉はそんな僕を見兼ねてか、僕に色々な手伝いをするよう頼んでくるようになった。 姉のために何かが出来る事で僕の罪悪感は少しずつ薄れていった。 後で聞いたらあの時の僕の顔は酷かったらしい。 何をするにもびくびくして、今にも泣き出しそうな顔で一日を過ごしていたらしい。 『なんか私が悪い事したみたいだったわ』 くすくすと笑って姉はそう言った。
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