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独白
幸せなら手を叩こう。
母に教えてもらった童歌の一節。
幸せという言葉の意味を知らなかった幼い私は、母に尋ねた。
「しあわせってなに?」
すると、母は苦虫を噛み潰すような表情をして、こう言った。
「知らないこと。何も知らないことが一番幸せ」
大人になった今でも、母の言葉に納得する。
知れば知るほど、私は不幸になった。私は、祖国を知らない異邦人。世間が言う流民だった。
流民に個はない。だから、私には名前がなかった。
流民は外れ者。だから、私は母と同じように、娼婦になって金を稼ぐしかなかった。
何も知らないことが幸せ。
幸せになるためにすべてを忘れて、知らない頃に戻りたい。それが、私の願いだった。自分が流民(ルーミィン)であること、娼婦であること。自分の母が、強姦で死んだこと。
そして、もうすぐ自分は――
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