神と悪魔…私は何?

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7月9日。彼女はその日に産声を上げ、両親は産まれた子が女児であると分かると狂喜したという。その後、すぐに親元から離された彼女は国の支配者であり神殿の主である大神官によって《サリ》という名を与えられ、両親の素性すら知らされる事なく神殿での生活が義務付けられ、産まれた瞬間から19才までの命と宿められるのだった。 「古い文献によると、我らの暮らすこの島は女神ゾルビの流した涙によって創造されたと記されており、7月9日に誕生したと云われる女神は19年の生涯を、同日付の7月9日に閉じたと云われております。さぁ、ゾルビの恩恵を授かりし神の子らよ、祈りなさい」 広大なる敷地を誇る神殿の一室、そこはだだっ広いだけの広間であるが中央には教壇があり、大神官が少女達に向かって語り掛けていた。日々繰り返される同じ語りにウンザリしながらも、18才になったサリは、 「女神に感謝を、我らに安寧と祝福を」 と、大神官を取り巻く100名余りの神の子と呼ばれた様々な年代の少女達とともに合掌する。というか、フリをした。 ―馬鹿みたいだ。ゾルビと同じ日に産まれた女というだけで何が神の子だ― 片隅に腰掛けるサリの心に秘められた思いが揺らぐ事はない。 ―私は今日、この神殿から抜け出してみせるからな― それは産まれてから一度も神殿の外へ出たことのない、神の子サリの一世一代の賭けだった。 涙型で長細い、荒れ狂う海流に挟まれた小さな孤島、そこがサリの産まれた場所であり、女神ゾルビを絶対神として大神官が統治していた。その拠点となるべくサリの住む神殿は島の最北端、海を見下ろす断崖沿いにあり、高さ20メートルにも及ぶ壁が周囲を囲い、唯一の出入口である門扉には騎士と呼ばれる男が常駐していた。彼等は漆黒のマントに身を包み、その証である銀剣を携帯して神殿内外の警備も任されている。さらに神殿内には数多の神官が住んでおり、神の子に対する待遇は手厚く不自由はないのだか、壁の外へ出る事だけは決して許されなかった。 ―人殺しの大神官のばばあが安寧とか言ってんじゃないっての― 教壇に立つ真っ白なマントと黄金の冠を被る丸々と太った大神官を睨み付けながらサリは口を尖らせる。
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