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かっかと熱を発する頬を押さえ、昌平は一目散にその場から駆け出し、脇目も振らず家に逃げ帰ると、頭から布団を被り悶絶した。こんなにも無骨で今まで恋愛に興味すら無かった筈の彼が、恋文を書いた。この事実を周りのものが知れば、どれほどの大騒ぎになるだろうか。ひょっとすると親戚一同が集まって飲めや唄えの大宴会になるかもしれない。
昌平はひとしきり後悔すると、熱い息を吐いて頭を抱えた。
チドリ青年があの恋文に気付かないように願うしかなかった。
翌日、昌平は暗澹たる気持ちでいつもの如く海岸へと出かけた。そこまで憂鬱ならばいっそ行かなければいいと思うだろうが、恋というものは最後まで燃え尽きなければ終わらないものだ。ましてや若い青年の初恋というのは、おそろしい。なまじ引っ込み思案なところが危うくもあり、いっそ情熱的にすら見える。
昌平は何度も白いため息を吐きだしながら長靴を砂に埋めつつ、昨日恋文をしたためた岩陰をそっと覗いてみた。
てっきりそこには見悶えるほどに恥ずかしい、昌平の恋文がそっくりそのまま残されているかと思ったのだが、一帯の砂浜にそのような形跡はどこにも無かった。時折吹く寒風が砂をさらさらと転がすだけだ。どこか拍子抜けしたような、安堵したような、妙な心地で昌平は考えを巡らせ、一人納得した。
潮に流されたのだろう。ここらの潮は昼過ぎに満ち、日が沈む頃に一度引いて、その後は深夜に満潮を迎える。恐らく夜中に掻き消えたのだろう。それまでにチドリ青年が恋文に気が付いていれば……。
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