後編

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後編

 朝一番の漁を終え、網の手入れや収穫を卸している内に、あっという間に正午になろうとしていた。買い出しもそこそこに家へ飛んで帰ると、春菊の雑炊を火傷しながらも豪快にかき込み、休息も取らず海岸へと走った。長靴の底がやぶけてしまったのか、水たまりの上を走ると大層冷えた。  どこかの連中が船を出しているのか、いつもよりも荒涼とした海岸で、いつもの岩陰へと腰を下ろした。  誰もいない事を確認すると、昌平はジャンパーのポッケからペンを取り出し、柄で砂地を掻いた。昨日茅鳥青年が残した文章はすっかり波に浚われてしまっていた。だけれど、昌平は少しも惜しくは無かった。三行の文章は、昌平の眼に、脳に焼きつけられ、今でもあのまま思い起こす事が出来るのだから。  相変わらず曇ったままの空が重苦しい。ここ数週間、太陽を見ていないような気がする。  さりさり、砂を掻いては手でもみ消し、また砂を掻く。なかなか文字にならぬ言葉が胸の中で渦巻き、発熱さえしそうだ。息苦しいような、そわそわと落ち着かない心をなだめるように、大きく息を吸う。少し塩辛い、嗅ぎ慣れた海風で体中が満たされる。     
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