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それから
佐伯の部屋に入ってまず感じたのは違和感だった。
何が?と聞かれると上手く答えられない。
しいて言うなら、佐伯らしくない部屋だからということだが、どこがどう彼の部屋らしくないのかは分からなかった。
リビングに通されて座る。
何をしに来た訳でも無かった。
正直何故今ここに居るのかも自分自身良く分からない。
前までは、あんなに、分からないということが嫌いだった筈なのに今は分からないことだらけだ。
佐伯に手渡されたマグカップにはホットミルクが入っている。
家に来た客に出すには不釣り合いな飲み物は密かな俺の好物だった。
特にはちみつが入ったものが好きだ。
口をつけるとほのかな甘みがする。
一番好きな味のそれを飲んで、妙にほっとした。
不思議だった。
好きな食べ物の話なんかしたことは無い筈だ。
口をつけながら佐伯を見ると目があった。
仕事中とは違い髪の毛を下ろした表情は幼く見える。
双眸を下げた佐伯の表情にデジャヴを感じる。
こんな表情見たことはない。
「なあ、俺、ここに来たことあったか?」
佐伯は答えなかった。
何言ってるんだよと笑ってほしかった。
何故答えないのか、そんな簡単なことが分からない。
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