春浅い日

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 田島を待つ間、りさ子はこれから起こるであろう事を考えると、足が震えた。  ホテルを出て、またホテルへと帰ってくる人波を見つめていた。BGMにクリスマスキャロルが流れている。頭が次第に混沌としていた。  家族にうそをつき家を出てきたりさ子とは対照的に、出張で大阪にきて外泊している田島には何のリスクもない。そんな冷静なことを考える心の余裕はかろうじて残っていた。  BGMがビートルズのオールマイラビングにかわった。高校時代(今もそうであるが)りさ子はビートルズの大ファンで、その中でもお気に入りのバラード集のLPがあった。擦り切れるほど聴いていたが、レコードを実家に置いたまま、どこに行ったかわからなくなってしまった。そのレコードをテープに録音したものをどうやら高校時代に田島にプレゼントしたらしく、再会のときに大切に持っていたよとCDに焼き、プレゼントしてくれた。文化祭でガンダムのはりぼての前で笑顔でピースしているりさ子の写真とともに。     
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