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現在、過去の懐かしい記憶がりさ子の中でかけ巡った。家族の介護で疲れ切っている自分、息子の学校がらみのゴタゴタ、口をひらけばご近所の騒音問題しか口にしない隣人。ストレスだらけの仕事。解放されたい。解き放たれたい。そう思った。
このままでは終わりたくない。このままで。深くそう思うと同時に、迷惑なことばかりではない、当たり前のように家族がいるありがたさ。息子のくったくのない笑顔が思い浮かんだ。様々な想いが頭の中を駆け巡った。
「田島さん、遅いなあ。」
りさ子は、そうつぶやいた。時計を見ると、十時を少しまわろうとしていた。
そうだ。りさ子はシャワーを浴び、二十年の時をこえて田島に抱かれにきたのだ。メールのやりとりをして、最初の再会のとき、田島は言った。
「高校時代にできなかった、セックスをしよう。そして、二人の秘密にして、墓場まで持っていこう。ふたりだけの、、、。」
その時、りさ子はもう結婚して子供もいるのだし、体型も崩れてしまっているし、何をいまさら、、、、、と鼻で笑った。
が、しかし、生活に疲れた四十路女への誘いのことばは、ボディブローのようにじわじわと身体に沁み込んでいった。
りさ子のスカートの丈がだんだん短くなっていくのも偶然ではないであろう。
さびしい。そうさびしさと疲れがりさ子の身体を埋め尽くし、その闇を拡げてぱっくりと口を開いていたのだ。
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