春浅い日

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 佑介はそんな自分が嫌で、新規一転海外でのビジネスで巻き返しをはかろうとした。必死の思いで中国語をマスターすると、上海で手広くビジネスを展開している大学時代の先輩に約束を取り付けると、上海に飛んだ。初めは会うことくらいしかできないといっていた先輩も、佑介のビジネスプランと流暢な中国語を聞くと、佑介が上海でビジネスを興したいのならできることしかできないが、手助けをしてもいいと言ってくれるまでになった。こうなれば、全身全霊で新天地で仕事に打ち込むしかない。再会だの恋だの言っている余裕などない。  佑介、なんで、、、なんで直接会って言ってくれなかったのだ。  「佑介はね、もう一度りさ子さんに会うと、自分の決意が崩れてしまうかもしれない、もしくは、りさ子さんを強引に上海に連れていき、りさ子さんの家庭を壊してしまうかもしれないと恐れたんだよ。自分が両親がほとんど冷め切った不和の関係の中で育ったからね、りさ子さんの子供に同じような苦しみを与えたくなかったのかもしれない。」  佑介は、東京の大学は卒業したが、家族がいるというのは、口からでまかせらしかった。  たった一人の命綱。それがりさ子だったのではないか。いつもひょうきんなメールをよこすから、てっきり軽い部分のある遊び人かもしれないという思いが心のどこかにあった。佑介はてっきり仕事で成功して、家庭もあると思っていた。一人、たった一人で深く悩んでいたとは夢にも思わなかった。  佑介、りさ子は佑介に満たしてもらおうとするばかりで、彼の心の叫びや悩みを聞き取ることができなかった。悔やまれる、そんなことばでは、りさ子の気持ちを言い表せない。     
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