春浅い日

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 なぜ、佑介を満たしてあげること、力になってあげることができなかったのか。若い時の恋愛ならいざしらず、もう、ミドルエイジなのだ。あまりにも未熟すぎではないだろうか。自分の鈍さを嘆いても嘆き切れないとりさ子は思った。だがしかし、もし佑介が心の内を吐露してくれたとして、家族のいるりさ子に彼を支えるだけのキャパシティはあったのだろうか。  人は誰かひとりでも支え、理解してくれる人がいれば生きていけると仕事関係で知り合った文筆家に聞いたことがある。彼は、娘さんを精神疾患で亡くしている。理解し支えるということは、それは並大抵のことではないであろう。  けれど人は理解しあい、支えあいたいのだ。それが、儚い錯覚、幻だとしても。  心に負った大きな傷。これから先、時間がどれだけの癒しをもたらせてくれるだろうか。  二度目の別れ。     それは、一度目よりも重く、どっしりとりさ子にのしかかっていた。 
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