春浅い日

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 ふたりが高校2年生にあがるころ、田島はバンドを組んだ。家でひそかにギターを練習しているとは聞いていたが、まさかバンドを組むとは。  ちょうどその頃、ふたりで地元の映画館で話題の映画を観た。『青い珊瑚礁』。 主役のブルックシールズは、りさ子、田島とおなじ15歳だったこともあり、刺激が強い映画ではあったが、無人島で若い男女が工夫して生活して愛し合い生き残る物語。ストーリーはもとより、15歳の主人公のヌードが美しく,まぶしかった。途中、トイレに立つと、木製のドアで隔てた女子トイレ三箇所の下に一本の竹が通してあり、そこで用を足す。決まった時間がくると上から水を流し、いっぺんに洗い流す。りさ子はこの昔ながらのトイレがある古い映画館に親しみを覚えた。帰りに田島が話しかけてきた。りさ子はヌードのことにはあえて触れず、  「青い海に青い空。風景がとってもキレイだったね。あんな所に行ってみたいなあ。」   と答えた。  「そうだね。でも僕はすごい人で立ち見で疲れたよ。同じ組のカップルが2組もいて、バレないようにするのが大変だった。」  そうだったのか。映画の最中、田島が微妙に顔をそむけたり、顔をみられないようにしていたが、りさ子はそれを不満に思った。それで訳が理解できた。 別に同級生たちにバレてもいいではないか。悪いことをしているわけではないんだし。  田舎の高校生カップル。前述したが、田島はバスケットボール部、りさ子は文芸部に所属しており、帰りがたまたま一緒になれば自転車を二台並べてたわいもない話をしながら家へと帰ったが、普段はもっぱら交換日記をして二人の気持ちを伝えあった。田島はシャイで小柄なりさ子をかわいく思った。進学校なので、テストの前には必然的にテストの内容になる。県立高校の敷地はわりとひろく校舎が2棟、それに直角に交わる形で職員室や音楽室、美術室のある棟があった。そして新体育館と旧体育館。少し離れた自転車置き場の奥に小さな2階立ての文科系クラブの部室があり、その文芸部の部室で毎日日記の交換や簡単な話しをした。掃除時間の始まる前のあわただしい時間に。短い逢瀬の後は、田島が決まって先にでた。ドアをぴしゃりと閉める音が静かな部屋に響く。りさ子は誰もいない部屋に取り残されて、まるで海を漂流して離れ弧島に一人取り残されたような、さびしい、頼りない、切ない感覚にとらわれた。
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