春浅い日

4/20

4人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ
そんな忙しい日々の中で、田島のことはすっかり忘れていた。彼からいまさらながら手紙をもらっても、何と返事を書いたらよいのか、適当なことばをおもいあぐねていた。そうこうしているうちに、三通目の手紙が届いた。今度の手紙は東京に住む共通の同級生経由だった。彼女がきちんと手紙を大阪に住むりさ子に届けてくれたことを証明しないといけないし、彼女の顔を立てないといけない。りさ子は思い切って田島の携帯に電話した。田島の住所は東京になっていた。     「もしもし、旧姓佐々木りさ子ですけれど。」  田島は一瞬驚いた様子だったが、  「お久しぶりです。お元気ですか?」  「はい。おかげさまでボチボチやっています。貴方はお元気?」  そうして懐かしい昔話に花が咲いた。田島の手紙の主旨は、あのような振り方をしてすまなかった。別れ話は電話で済ませたが、きちんと会って顔をみてすべきだったとのことであった。また、きらいになった訳ではなく、りさ子の純粋な人柄に触れるたび、自分が醜い人間のように感じて苦しくなったとも言った。   未練を残したくないためにあんな言い方になったと彼はしきりに謝った。     
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加