春浅い日

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 日々の忙しさにかまけて時に自分が女性であることすらわすれていたりさ子。そんな、もう四十路を過ぎたおばさんのことを、忙しい仕事の合間をぬってブログに書き綴ってくれる存在、それも男性がいたとは。  りさ子は久しぶりに女性にうまれてきたことを、嬉しく思った。忙しさを理由に夫との夫婦生活も、もう長いことなかった。りさ子は女性としての張り合いを失い、ブラジャーは高級品からスポーツブラへ、衣類も安いことが魅力の大量生産品へと変わっていた。りさ子のなかで、忘れ去られていた何かが目を覚ました。このままでは道ならぬ道を行くことになるかもしれない。何人かの友人に田島のことを話したが、もて遊ばれるのがオチだよという人もいれば、 バレなければいいのよ、興味のあることは追求したほうがいいという人まで様々だった。さんざん逡巡した挙句、りさ子は決めた。しばらく田島と距離を置こうと。  メールでその旨を伝えると  「りさ子さんは僕から離れていってしまうんだね。」  と返信があった。りさ子はそのメールには、返信しなかった。あぶない。このままでは、かつて高校生だった頃の自分のように、また田島に惹かれていってしまう。田島は酔ってごくたまに  「好きだよ。でも会えないから、夢のなかであえればいいと思っている。おやすみ。」     
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