21人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
初めは狐かと思ったが、今は大きさは全然違うけれど、政宗と引越の時に一緒に連れてきたクロシバの梵天丸に見える。
「マサムネくん、こないで!」
強い口調で言って、背を向けて社の裏へ行こうとした。ところが、政宗はまだ従いてくる。
「ついてこないでってばッ、かえって!」
政宗は言う事を聞かず従いてくる。
「もう、かえれ!」
「キャンッ」
足下にあった石を拾って政宗に投げつけた。それは政宗の頭に当たり、さすがに堪まらず来た道を引き返す。
「フン」
紫織は再び社の裏へ向かった。
この寺に来た時から、自分を背に乗せて遊んでくれた心優しい政宗、ちくりと胸が痛む。
アタシはわるくない。ゆーことをきかない、マサムネくんがわるいんだ……
心の中で自己弁護をする。
神社の裏の林を抜けると開けた場所があり、腰掛けるのに丁度よい石が一つある。
紫織はその石に座り辺りを見回した。社は猪山の頂付近に在り、そこから南西に少し下った所にこの場所はある。
ここからだと、眼下に戌亥寺の墓地と南に広がる田畑や山並みが見える。
「う、うぅっ、うぅうう……」
嗚咽が漏れ、涙が溢れ出た。やがて紫織は声を上げて泣き始めた。
この景色の更に向こうに八千代がある。
「おとうさん、ミック、ゆっぴー、カナ……みんな……みんな……あいたいよ……」
最初のコメントを投稿しよう!