635人が本棚に入れています
本棚に追加
また呼ばれた気がした。
あの森から聞こえる。行かないと。
森の中は意外と明るかった。木漏れ日がキラキラと頬を照らす。
こんなにいい場所があったなんて。両親にも教えてあげたい。
静かだけどとても綺麗な森の中を、僕は小さな歩幅でせっせと歩いていた。
急に鉄のような匂いがした。こんな森の中に金属があるなんて不思議だな。
それくらいにしか思わず、また歩いているとひらけた場所に出た。
ふわりと香る甘い匂いは、中央に群生している淡い色の花からだろう。
蝶が舞い、日差しがぽかぽかと暖かそうで、そんな中で血を垂れ流し横たわる大きな獣が
なにより痛々しく見えた。
スン、と獣が鼻を動かした。そして閉じていた目をゆっくりと開ける。
金色の目だと思った。けれどその目はよく見ると青色で、憂うような、包むような、
そんな深い深い色をしていた。
きっと僕の匂いが気になって起きてしまったんだ。
だったら早く離れよう。そう思ったのに、足はいつのまにか獣のほうに動いていた。
「けが...してるの?」
獣のすぐ隣にいって、聞いてみる。もちろん相手は動物なのだから返事は返ってこない。
最初のコメントを投稿しよう!