白い部屋、起床。

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 白。純白という言葉に用いられる様に自然、清潔な印象を抱かせ易い色合いだろう。しかしそうした色であっても、殆ど其れ1色、一種見事な迄に部屋中を纏められていれば清潔感よりも不快感、まるで病的で、発狂さえするのではないかと思わせるものがある。  部屋に満ちた薬品臭が鼻を刺す。鼻奥をツンとしたものを抱かせる刺激臭は、何度何時間此の場を訪れ留まろうと、早々慣れてしまうものではないらしい。  其の部屋を構成する物は様々である。無論部屋が部屋として機能する為の天井や床、壁等々を除いて。そして其の1つがこれまた清潔感を抱かせる白色のベッドである。  長らく其のベッドを占領し、懇々と眠っていた女は、今日、漸く身を起こした。  とは言え馬上の人ならぬベッド上の人、とでも言うのであろうか。ベッドから立ち上がる事はせず、緩慢な動作で周囲を見回す。未だ幼さを残した顔に明らかな困惑が添えられた。 「……キミは、誰?」  部屋中を見回し、漸く見付けた“物言う白色以外の物体”たる男に、少女は声を掛ける。長らく眠っていた所為だろう、掠れ、消え入りそうな小声であったが男の耳は其れを正確に、1音たりとも聞き落とす事なく拾い上げた。  そして嘘を吐く事が得意である此の男は、今し方目覚めたばかりの、傍目にも病床に臥しているだろう女が相手であれ、成す事に変わりはない。 「オレはキミの恋人だよ」  そう。相手が漸く目覚めた記憶喪失の女であっても、男はいけしゃあしゃあと、“其れらしく”誰が見聞きしても毛頭疑心等抱かれぬ声音、表情を駆使して、自らの特技を存分に発揮する。
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