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蹲って呟いた言葉に、思い切り首を振った。
違う。違う違う。潤ちゃんは家出なんかしてない。私を置いて、ひとりで村を出たりなんかしてない。
信じてる。一緒に村を出ようと言っていた潤ちゃんの言葉だけが、毎日走り回る私の、支えになっていた。この言葉を信じられなくなったら、私はもう、走れない。
ぽたり、ぽたりと地面を打つ音が聞こえてきた。その音は次第に大きく、早さを増し、森全体をざわつかせる。飛沫で白く霞むほどの、夕立だった。
大きく繁った『ミツルギ』の下に居れば、雨に濡れることも無い。時折、ぽつりと雫が落ちてきたが、別段気にすることも無かった。
勢いよく降り出した雨は、すぐに雨脚を弱め移動してゆく。
村全体が、一緒に泣いてくれているようで、少しだけ気持ちが落ち着いた。
ふぅと大げさにため息を吐く。いつの間にか、探し続けているのは私ひとりだけになった。村の大人たちは口をそろえて、諦めろという。
「あの子は家出したのだ」と、私を諭す。
潤ちゃんはそんなことしないと、声が涸れるほど叫んでも、誰も聞いてくれなかった。
「そんなだから、この村を出ようと潤ちゃんと言ってたのよ」
そうしてまた、『ミツルギ』の下で泣いた。
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