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「満つる木、って可能性もあるんじゃない? 生命の満ちている木。剣の埋まったご神木より、ありそうでしょ。これはこれで、結構素敵だと思うな」
「えぇー、御剣のほうが断然カッコいいよ!」
時々夢見がちな潤ちゃんとの会話が、今はただ懐かしい。たった一週間前のことなのに。
懐かしさにこみ上げた涙を拭って、潤ちゃんのお祖母ちゃんの家の扉を引いた。潤ちゃんの家とは、入り口は別々だけど、細い廊下でつながっている。
「おばあちゃん、こんにちはー!」
よたよたと出てきたお祖母ちゃんは、
「潤ならまだ戻っておりゃせんよ」
と眦にうっすらと涙を浮かべていた。それを見なかった振りをして、『ミツルギ』の名前の由来を尋ねる。
「潤ちゃんと、一緒に調べてたの」
「そうかい、そうかい」
一度、家の奥へと引き返したお祖母ちゃんが、お茶とお茶菓子をお盆にのせて戻ってきた。よっこらせと、小さく声をだしながら玄関に座り込む。
ずずっとお茶をすすると、そう楽しい話でもないよ、とゆっくりと話をしてくれた。
話を聞き終えた私は、ありがとうと礼を言ってお祖母ちゃんの家を出た。
「残念だったね、潤ちゃん。二人とも、外れだったよ」
俯きながら歩く私の目に、大きな『ミツルギ』が飛び込んでくる。そして潤ちゃんとの待ち合わせの時のように、根元に立つ。
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