1人が本棚に入れています
本棚に追加
「全然、かっこよくなんかなかったよ」
ぽたり、ぽたりと雫が地面を打ち付ける。堪えていた涙が溢れてきて、上を見上げた。西日に照らされた葉は、きらきらと輝きながら来い陰を作っている。
「ねえ、潤ちゃん、何処にいるの? 教えてよ、潤ちゃん、何があったの?」
あふれた涙に、じわりと陰が滲んで揺らめいた。
「潤ちゃん、探しに行くよ。見つけるから、絶対に」
決意を口にすると一つ頷いて、誰そ彼時、私は『ミツルギ』の下から走り出した。
一気に坂を駆け下りて、村役場の方へと走る。敷地ばかり広い駐車場には、あの日見た賑やかな明かりは見る影も無かった。櫓も壊され、いつもの侘しい風景に戻っている。
思い出に気を取られて、滑りこむ様に無様に転ぶ。けれどすぐに跳ね起きて、また真っ直ぐに走り続けた。
ミツルギから真っ直ぐに、真っ直ぐに。導かれるように。
村役場の裏に広がる森の中で、肩で大きく息をする。呼吸が整うまで木に手をつき、俯くとぱたぱたと汗が滴り落ちた。
ぐっと足に力を込めて、挑む様に一歩を踏み出す。まだ日没までは時間があるはずなのだけれど、鬱蒼とした森の中は夜のように暗く、冷えていた。
最初のコメントを投稿しよう!