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奥へ、奥へと歩き続けると、そこでやっと足を止めた。
「潤ちゃん」
両腕を広げて、両足を投げ出して、あおむけに転がる潤ちゃんの瞳には、鮮やかなオレンジの陽光が映りこんでいた。濁った瞳が、輝いている。
潤ちゃんは半ば、土に埋まっていた。
「潤ちゃん・・・」
崩れ落ちて、這うように潤ちゃんに近づく。
白地に、瑠璃色の蝶が優雅に飛んでいる。ふわりと広がる袖と、解けて靡く帯が、蝶の羽のように広がっていた。乱れた浴衣から、白すぎる肌が露わになっている。
「殴られたの?」
やっとの思いで近づいて、痣の残る頬に触れた。乾いた口の端も切れて、血が付いていた。
「誰に・・・? 誰が・・!」
ざっと土を払いのける。
「うっ・・・うぅぅ・・・」
悔しさに呻いた。そして怒りのままに叫び続けた。私の声を聞いた村役場の人たちが、何が起きているのかと、ぞろぞろと集まってくる足音が近づく。
座り込む私を見つけて伸ばされた手を、叩き退けた。
「近寄るな!! 来るな!!」
涙でぐしゃぐしゃな顔のまま、大人たちに吠える。
「だから言ったじゃない、潤ちゃんは家出なんかしないって! 信じてくれなかったじゃないか!!」
警察が来るまで、私は大人たちを潤ちゃんに近づけようとしなかった。
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