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言い訳がましく何か言おうとする大人たちの言葉を、睨みつけることで黙殺した。
潤ちゃんは、森の中で殺されていた。
にわかに騒がしくなった村は、けれどあっという間に静けさを取り戻した。
あの日の夜、最初に「家出じゃないか」と言い始めた村役場の男が、潤ちゃんを森に連れ出し、殺した犯人だった。その男が警察に連れていかれて、それでおしまい。殺された潤ちゃんが、相手の男にしっかりと爪痕を残してくれていたらしい。
鈴の音が鳴り響く。線香の香りが、細く立ち上っていた。読経の声に、すすり泣く声が重なる。
夏休み最後の日。
綺麗になって戻ってきた潤ちゃんを送り出すと、真っ黒い服のまま『ミツルギ』の下まで急いだ。
「潤ちゃん」
揺れる陰に、さわさわと背筋が粟立った。けれど怖さも、ひと呼吸で吹き飛んでいく。
ぽとり、ぽとりと目の前を何かが落ちてゆく。地面に赤黒く染みを残してゆく。
「潤ちゃん」
名前を呼んで見上げると、木の枝に絡めとられた彼女がそこに居た。ぱくぱくと口を動かしているが、空気が漏れるだけで何の音も発してはいない。
「教えてくれてありがとう。約束を破ったりなんかしないって、信じてたよ」
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