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怖くは無かった。潤ちゃんであれば、怖くなど無かった。けれど緊張に、ぎしぎしと首がきしむ音を鳴らす。
「潤ちゃん」
待ち合わせをしていた時、私はいつもこうやって潤ちゃんの名前を呼んでいた。
「――――」
そしていつも潤ちゃんは、私の名前を呼んで手を振っていた。ころころと鈴のように愛らしかった潤ちゃんの声は、もう聴こえない。掠れて、空気が漏れるだけ。
「首を、絞められてたって、聞いたよ」
俯いてまた、彼女の名前を呼ぶと、空気の震える音がした。
「―――・・・あの日、ずっと待ってたんだよ。夜になっても来なかったから、待ち合わせに来なかったことなんて、なかったから・・・心配した」
すでに死んでしまっている彼女に向かって、何を言っているのか。待ち合わせに来なかったことを、心配をかけたことを、詫びてほしいのか。
否。
首を振って、唇を噛んだ。詫びてほしいわけじゃない。ただ、あの日、過ごすはずだった消えてしまった日常を、取り戻したかった。
これは、普段通りであれば、交わされるはずだった会話。果たされなかった、日常だ。
「本当に、心配・・・したんだよ」
涙を拭うことなく、潤ちゃんを見上げる。頭で理解している死に、心が付いて行っていないのだと実感した。
「―――・・・」
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