ミツルギ

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 中学を卒業した私は、村を出ることも高校へ行くことも無く、ここで唯一の小さな商店で働き始めた。どこも跡継ぎ不足で、村に残ると言えば引く手あまただった。  そのまま、七年が過ぎて、この村で成人を迎えた。隣町で行われた成人式にも行かずに、誰そ彼時、私はまた身吊る木の下に立っている。  ひゅうと、空気の掠れた音がした。 「ねえ、潤ちゃん。私、二十歳になるのよ。あれから、七年経ったわ」  おめでとうと言うかのように、がさがさと木の葉が揺れた。そしてあの日と同じように、ぽたりぽたりと、崩れた身体と血が地面に染みを作る。 「潤ちゃん。あのね、知ってた? 身吊(みつ)()はね、四十九日が済むまで居る場所なんだそうよ。未練を絶って死出の旅路に付くための、場所なの。潤ちゃん、四十九日なんてとっくに過ぎてるわ。三回忌も七回忌も終わったのよ? いつまでそこで吊られているつもりなの?」  本心ではないのは、相手にも伝わっているだろうなとわかる。未練がましいのは、潤ちゃんじゃなくて、私の方だ。  見上げると、今日も潤ちゃんはまっすぐに私を見下ろしている。あの日、あの時の姿のまま。  小学生最後の、夏休みのまま。 「天国にも、地獄にも、行くつもりは無いのね。もしかして、行き場が無いのかしら?」  居なくなってしまっては寂しいくせに、最大限に強がって見せる。     
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