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その坂の途中に二本、枝分かれして細い上り坂がある。どちらもてっぺんで一本の道につながっていて、小学校へと続く道だ。
一本目の坂の入り口には、小さな石が置いてある。ちょうどいい具合に日陰になっていて、その石には時折、おばあさんが座って休憩をしている。
二本目の入り口には何もないが、坂の真ん中あたりが少し開けていて、そこには周りから抜きんでた大木があった。
その大木は『ミツルギ』と呼ばれていて、私と彼女の待ち合わせ場所になっていた。
今から話すのは、私と彼女―――潤ちゃんの、小学生最後の夏休みの話。
夏休み最後の、十日間のお話。
潤ちゃんは、今日のように蝉の鳴声のうるさい暑い日に、忽然と姿を消した。
いつか一緒に村を出ようと、二人でよく話をしていた私の最愛の友人。
何の前触れもない、長い夏休みも終わりに近づいたころだった。
潤ちゃんが居なくなったことが分かったのは、村役場の駐車場に盆踊りの櫓が出来上がった、八月十五日のことだった。
その日は夏休みの自由研究のため、潤ちゃんといつもの場所で待ち合わせをしていた。夕方からは、盆踊りに行くことになっている。夏休み最後の、この村最大のイベントだった。
けれど待ち合わせの時間を過ぎても、空が茜に染まっても、潤ちゃんは来なかった。
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