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暗くなるまで『ミツルギ』の下で膝を抱えていたが、遠く見える櫓の明かりを一人眺めているのが侘しくなって、坂の上の潤ちゃんの家を訪ねた。
もしかしたら風邪で寝込んでしまっているのかもしれない。何かがあって、来れなかったのかもしれない。
「潤ちゃん。潤ちゃーん!」
扉を開けて、玄関から大声で叫ぶ。ぱたぱたと足音を立てて現れたのは、エプロン姿の潤ちゃんのお母さんだった。
「あら、どうしたの? 潤なら昼前から出かけてるわよ。待ち合わせをしてたんでしょう?」
盆踊りのために浴衣を着こんだ私の姿を、潤ちゃんのお母さんがにこやかに褒めてくれた。
「待ち合わせ場所に、潤ちゃん、来なかったの」
慣れない草履で坂を駆けあがってきて、擦れた足の指の痛さが急に襲ってきた。潤ちゃんが待ち合わせに来なかったのは初めてのことで、それだけで不安に足が竦む思いがした。
「あら、じゃあ盆踊りに先に行ったのかしら・・・まったく、あの子ったら」
ごめんなさいね、と潤ちゃんのお母さんが困り顔で微笑む。潤ちゃんによく似た目じりが、皺を刻んでいた。
「行ってみる」
足の痛みを必死で我慢して、盆踊り会場まで走った。普段は街灯のない真っ暗な道が、今日だけは提灯の火で妖しく照らし出されている。どんどんと響く太鼓の音に、村全体が揺れているようだった。
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